甘口の酒が多いとお嘆きの諸兄に

 
前回「Cool で辛口な編み物の本があつてもいい」といふやうなことを書いた後、「ぢやあどんな本がいいのだらう」と考へて、一番最初に頭に浮かんだのが、群ようこ 編物術―毛糸に恋した (シリーズ日常術)だつた。
 
この本、別段「Cool」でも「辛口」でもないし、編み図や編み方が載つてゐるわけでもないのだが、編み物を自然なものとしてあつかつてゐる感じがいい。「手作りつてステキ」とか「あみあみしやう」とか云はないけれども、でも「編み物つていいよね」といふ感じがするのだ。
 
しかしこの本は一般的に「編み物の本」として受け取られることはないだらう。
そこでさらに考へたのだが、えうは「切り口」ではないのか、といふ気がするのである。
 
たとへば、「ニットマルシェ」とまつたく同じ作品をとりあつかつた本を作るとしても、取り上げ方がちがへばまたちがつた印象の本になる。
 
……でもまあ既に作品が「をとめ」してたか。さうかなさうかも。
 
だんだんとりとめなくなつてきたが、ぼんやりと広瀬光治を思ひ出したりもした。
 
ニットの貴公子あらためニットの伝道師広瀬光治は、見たことのある人ならご存知のとほり、いつもレーシーといふかゴージャスといふかフェミニンな手編みの衣装を身につけ、物腰もやはらかな人物である。作品もまたそんな感じ。
だが、まれにイヴェントなどで講演するのを耳にしたりすると、ものすごく secco な感じがするのである。
さう、dolce ぢやなくて secco。
♯酒飲みだからだよ、といふ冗談はさておき。
編み物に対する情熱を感じる一方で、さめてゐる感じもする、といつてもいいかもしれない。
 
広瀬作品を secco な切り口で本にしてみたらどうだらう。これまでにないとても素敵なものになるんぢやないかといふ気がしてならない。
 
ここにいたつて、前回「辛口」と書いたのは、hot や spicy ではなくて、secco な感じだつたのだなあ、と、気がついてみたり。
 
まあそんなこと云はなくても、たとへば Debbie Bliss の作品はこども用でもシンプルでナチュラルな感じだつたりするが、とてもかはいいぢやあないか、といふ気もする。決して甘い感じで紹介されることはないが、でも赤ちやんが着るとちやんとかはいかつたり甘い感じがしたりする。
 
ああいふの、いいなあ、と思ふんだけど。