Outer Limit

 
 
うーん、どちらかといふと_Twilight Zone_派なんだけどな。
ロッド・サーリングのあの喋り方だけで怖かつたなー、こどものころは。
 
……つて話が全然よそに行つてゐるが。
 
二月のとある日、これまたとあるイヴェントに参加しないかと誘はれた。
イヴェントとは Sock Knitters Pentathlon。
北京五輪開催の年といふことで、なにやらそれにちなんだくつ下編みの競技会のやうなものを開催したい、ついては、といふことらしい。
このイヴェントについては、ほかに参加されてゐる方々もいらつしやることなので、そちらに詳しい説明が出てゐるやうだ。願はくはそちらをご覧くださらんことを。
 
「青砥稿花紅彩画」または「弁天娘女男白浪」あるいは「浜松屋」で、弁天小僧菊之助が、「あつしやあほんの頭数さ」と嘯く場面がある。日本駄右衛門を頭とする白浪五人男の、自分はただの頭数に過ぎない、と、これは弁天小僧の「謙遜」なわけ。
 
弁天小僧ぢやなけねども、「あつしやあほんの頭数さ」といふ、これは謙遜でもなんでもなく、事実。開催した人としては、五輪にちなんだイヴェントだし、いろんな國から参加者をつのりたかつたのだらう。それでお聲をかけてくだすつたんだらうと思ふ。
 
いづれにしても、そんなわけで今年は二ヶ月にいつぺん、課題が出て五足のくつ下を編むことになつてゐる。三月にはじまつたから、既に三足編んでゐるわけだ。
 
最初がこれ。
 
Jacobian: Official photo
 
Jacobean といふ。
これは、元々編みたいなと思つてゐたくつ下だつた。
LouetのGems Pearl ははじめて使ふ毛糸で、つるつるして編みづらかつた。2Plyらしく、わりと割れやすかつたやうに記憶してゐる。うーん、もう使ふことはないかな。
ただ、つやつやしてゐておもしろいと思ふ。
3月1日に「このくつ下を編むよ」と連絡がある。事前に「今回編むのはこんなくつ下で、推奨する毛糸と針はこんな感じで、ゲージはこれくらゐ」といふやうな連絡があるので、あるていど毛糸の候補はしぼつてゐたけれど、やはりどんなものを編むか具体的にわかつた状態で選びたい。
そんなわけで、米国東標準時の3月1日0時、すなはち本邦明石では3月1日14時に「Jacobeanを編むよ」と連絡が入つてから、毛糸の山に向かつてこの糸を取り出したわけである。
 
緑にしたのは理由がないわけではない。
 
このイヴェントでは、五足のくつ下を編むことになつてゐる。
すなはち、五輪の各色で編むなんてなことも可能なわけだ。
 
実際さう宣言してゐる人もゐる。
宣言しなかつたのは、ひよつとしたら途中で、「やつぱりほかの色にしたいな」と思はないとも限らないと思つたからである。
 
実ハEngrish weblogもあつたりするのだが(ミススペルではない)。
そちらでは「Unglaubtlich」といふ題名でエントリを書いた。
Unglaubtlich。
その昔、ビリー・クリスタルが「サタデー・ナイト・ライヴ」に出てゐた時の持ちネタに、「Unbelievable!」といふのがあつた。
すなはちさういふことである。
 
なにが信じられないつて、翌日には一足仕上がつてゐたことだ。
それまでは、並太ていどの毛糸でなら根をつめれば一日片方編むことができる、と思つてゐた。
実際はそんなに懸命に編むことはないので、土日で片方。あとの五日間でなんとかもう片方で一足。それも並太ていどの毛糸で、といふのが「くつ下編みスキル」だつたのである。
中細とかいはゆる「Sock Knitting」用といはれる毛糸で編む場合、土日で片方はムリで、一足編むには二週間くらゐかかつてゐた。
去年の三月ごろ、片道二時間半くらゐかけて職場に通つてゐたのだが、この時、田舎から田舎に通ふといふことで電車が空いてゐるのをよいことに行きも帰りも編みまくつてゐたことがあつたが、このときだつて一週間で一足は編めなかつたやうに記憶してゐる。
 
多分、挑戦してみたことがなかつたからだらう。
「自分にできるのはこのていど」と思ひ込んでゐたからだらう。
 
まあ、できは、ね、そんなによくない。写真を見れば一目瞭然。
しかし、自分にしたらこんなものだらう。
そもそも、「くつ下を編める」といふだけでも、考へてみればものすごいことだと思ふ。
きつと小中高とやつがれのことを知つてゐる人は、「まさかあの人がくつ下を編むなんて」と思ふにちがひない。
当時からあみものは好きだつたけどね。
 
そして二足目がこれ。

Berlin Muster
 
Berlin Muster。
Musterは「手本」といふのが第一義だが、この場合は「模様」だらうか。「ベルリン模様」。ちがふかな。
Dale of NorwayのDalegarn Baby Ullを使つた。これもはじめて使ふ糸。割れやすいといふ話を聞いてゐたが、まあ話ほどではないか、と。
これは、日本時間では5月2日に「これを編みます」といふ連絡があつて、それから毛糸を選んで編み始めた。
この時はいろいろ大変だつた。
編み方に間違ひがあつたんだな。
それで喧々囂々……といふほどでもないけれど、メーリングリストやRavelryで「なにが正しいのっっ」とさんざんやりとりがあつて…………
しかし早い人たちにはそんなことは関係なかつたらしく、「ここはかうだらうと思つて編んだ」といつてゐる人もゐた。
なるほどね、達人は動じないのだ。
 
しかし、かういふ模様はいいね。
くつ下はどちらかといふと、足の甲には模様がなくて脚の部分はメリヤス編みかゴム編みといふのが好きといふことに最近気がついたのだが、それでもかういふ模様、いいね。なにしろ編んでゐて楽しいのがいい。
 
このときは連休で休みをとつてゐたので、なんとか二日間で完成。
次からがほんたうの挑戦になる。
 
といふわけで、三足目がこれ。
 
Stealth Rattlesnake Socks
 
Rattlesnake Creek Socksである。
これはかういふ毛糸で編むくつ下ではない。
わかつてはゐるのだが、しかし、この毛糸、すなはちLisa SouzaのSock! Merinoを手にしたときに、「うわっっ、これだっっ」と思つてしまつたのである。
つまり、手触りがよかつた。
糸に適度な弾力があつて、「毛糸つていつたらかうだよな」と思つてしまつた。
ちなみにShade Gardenといふ色合ひである。
 
これは本邦時間の7月2日の1時に発表になつた。
水曜になつたばかりだ。
この時は、毛糸だけ選んで寝ることにするつもりだつたが、思はず作り目をしてゴム編み部分をはじめてしまつた。
そのまま水木金と編み続け、金曜の夜といふか土曜の早朝に片方を編み上げ、土曜の夜といふか日曜の早朝に一足しあげた。
縄編み模様で、縄編み針は使はずに編んだ。
縄編みとゴム編みのくつ下はいいね。縄編みで多少伸縮性がそこなはれるが、そこをゴム編みで補ふといふところが実にいい。
さうか。一週間かからないのか。
 
といふわけで。
早く編めるからといつて、きれいに編めるわけではないし、履き心地のよいものを編めるといふわけでもない。
でも数多く作れるといふことは、それだけ可能性も広がるかな、といふ気もする。
 
そんなわけで、つい昨日、またくつ下を編み初めてみた。
ここのところ写真を撮るのがおっくうでな。
ものはExpress Lane。毛糸はSOXIE。
これも毛糸と編み方とが今ひとつあつてゐないんぢやが……。
ま、いつか。