Magic Loop にはまる

 
さうなのである。
すつかり気に入つてしまつたのである。
Magic Loop、すなはち一本の輪針で円周の短いものを編む技に。
 
なにがいいつて……うーん、なにがいいんだらう。
 
実は、Lichen Ribbed Sock は Magic Loop 向きではなかつた。
Magic Loop 向きのくつ下は、5本針で編むくつ下だと思ふ。すなはち4本の針に均等に目をわけて編むくつ下。特につま先はさういふ編み方がいい。3本で編む場合でも、目数の多い針にかかつた目の数がその他の針にそれぞれかかつてゐる目の数の倍だつたら Magic Loop 向きといつていいと思ふ。
 
一番多いつま先の編み方はさういふ感じだと思ふので、たいていのくつ下なら Magic Loop でも編めるといつてもいいだらう。
実際、「Magic Loop 向きぢやないなあ」と思ひつつ、Star Toe of Three Points も編めたわけだし。
 
最初は、コードを引き出してゐる部分が問題になるんぢやないかと思つてゐた。
表と裏とにわかれるところで、目が大きくなつてしまふのではないかと危惧してゐたのである。
よく、「くつ下編んでたら ladder ができちやつて……」といふ悩みを目にする。
ladderとははしごのことだが、針の端にかかつた目がゆるくなりすぎてはしごのやうに見えるためさういふらしい。
これまで4本針や5本針ではさういふことはなかつたが、Magic Loop だとゆるみがちになるんぢやないかな、と、心配だつた。
 
だが、杞憂に終はつた。
樹脂のコードの方が柔軟性があるからだらう、端の目も丁度いい具合におさまつてゐる。
輪針特有のコードから針の部分に目をうつす時に目がしまりすぎてうつしづらいことはあるが、まあ、輪針だから仕方ない。それにクロバーの匠ならこの点はそれほど気にならない。
 
片側を編み終はつた時にコードを引き出す作業も、思つたより苦にならなかつた。といふよりは、全然苦にならなかつた。4本針や5本針を使ふ時に針をもちかへるやうなものだと思へば、さほどの手間ではない。しかも一周編むあひだに二度あるだけのことだ。
 
さらに、4本針や5本針だとはばかられた乗り物の中でのくつ下編みも、まあちよつとは気楽に編めるといふものだ。4本針や5本針だと休んでゐる針のとがつてゐるのがどうも気になるのである。病院などでもこども・老人の多いところでは気になる。どちらも次の行動が予想のつかないことが往々にしてあるからだ。
でも輪針だととがつてゐるのは編んでゐる部分だけだからかなり気楽。
これなら夢の(?)通勤途中にくつ下編みもできるかも。
 
まあしかしいいことばかりでもなくて。
たとへば、上に「クロバーの匠なら」と書いた。
クロバーの匠はやつがれの愛する針である。
ここのところいろいろと浮気してアルミの針やローズウッド、黒檀の針を使つてみた。アルミはともかく、ローズウッドや黒檀はいいなあ、と思つてゐた。
でも、あらためてクロバーの匠を使つてみると、これがまあたまらないんだわ。なにがいいつて……なにがいいんだらう。とにかく編んでゐて動作がなめらかなのである。ストレスが少ない。なめらかなのにアルミの針のやうにつるつる滑つたりしない。
編みやすい針といふのはかうしたものか、と、しみじみすることしきり。
 
しかし。
クロバーの匠の場合、輪針で一番細いのは3号なのだつた。
でもくつ下つて0号とか1号とか2号とかで編みたいものなのである。
 
うーむ。
 
もちろん、クロバーの匠以外にも竹の輪針で2号以下の針を作つてゐるところもある。
当然のやうにさうした針も使つたことがあるが、大抵は使つてゐるうちにコードと針とをつなぐ部分から針がぬけてしまつたり、竹が裂けてきてしまつたりして使ひものにならなくなるばかりだつた。
 
すなはち、Magic Loop でくつ下を編まうといふ場合、クロバーの匠のこだはつてゐると、3号より細い針は使へないといふことになるのだ。
 
むむむむむ。
 
うーん、ここはやはりアルミの針を導入するか。
思案のしどころである。