質駒みたやうなもの

 
質駒とは将棋用語で、「盤上にある相手の駒だが、もうこちらが取つたやうなもの」で、ゆゑにすぐには取らずちよつとその場に置いておいてほかの手を指したりする。
オセロで云ふと、「もうこのあたりの白は全部ひつくり返せるから、ちよつと別のこのあたりを手厚くしておくか」つてなところ、かなあ。よけいにわけわかんないか。
 
実はやつがれにも「質駒」みたやうな編みかけのヴェストがある。
Knitters 2003 Fall に掲載されてゐる Cul-de-Sacがそれである。
 
去年の五月の連休中に編みはじめ、既に肩を脇もはいである。あとは襟をちよこつと編んで洗ふだけ(ローワン デニムで編んだため)だ。
 
やつがれの中ではもう完成できるも同然だ。
なぜ完成させないかといふと……うーん、なんでだらう。
 
これを編んでゐる最中に無理な裏メリヤス編みをして左手の人差し指を痛くした。これがなんとなく編みたくない理由の一つなやうな気がしてゐる。
 
と、こんなことをここに書いたのは、「やつぱり仕上げなくては」と思つたからである。
書いておけば仕上げるかな、とか。甘いか。
 
ちなみに全然どうにもならない編みかけにEneがある。
実は途中で編み間違つてゐることに気がついた。気がついたのはいいが、どこで間違へたのかわからない。
まだ全部ほどいてもいいかなつてなところなのだが、問題は「さうするとまたあの地獄の作り目が待つてゐる」といふことである。ゆゑにほどく勇気がないのだつた。
 
しかしこんなことをしてゐても仕上がらないので、なんとかしなくては……。
「気にしないで編み進む」といふ手ももちろんある。だつてどこで間違へたのか見てもわからないんだからね。